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密告者は誰か

犯罪サスペンスものだが、特筆すべきはこの作品、主人公がいないと言うことだろう。

一見、夏木陽介が主人公か?と思わせるが、実際に観ていると、夏木さんの出ているシーンは思いのほか少ない上に、夏木さんの目線に立ったドラマと言う印象ではない。

夏木さん演じる慶一が、どうして、あそこまで荒んだ生活を送るようになったかの説明も何もない。

ラストの表情等から、薬をやっているのか?とも推測できそうだが、直接的にそう言った表現も出て来ない。

同棲していた扇千景演じるあけみが、それらしき行為をしているかのような間接描写があるだけだ。

つまりこの映画は、犯罪者の心理を追ったものではないのだ。

犯罪者を出し、運命に翻弄させる家族と関係者たち、そして、事件を追うマスコミから受けるマスコミ被害を中心に描いた群像劇なのだ。

だから、主人公は、登場する一見脇役風の人物たちと言うことになり、往年の東宝脇役ファンとしてはたまらない映画になっている。

絶えずポケットウィスキーを飲んでいる破滅型風のニュースカメラマンを演じている天本英世や、その助手役の大村千吉、働く気のないだらしない亭主役の田島義文に、こめかみに絆創膏を貼っている偏頭痛持ちの女房役中北千枝子、好色なアパートの一人身管理人賀原夏子、頭空っぽだけど元気だけは良い横山道代、そして、後半、それまでの展開を全部1人でかっさらってしまう感じの三好栄子!

当時の東宝映画好きにはワクワクする配役である。

田中友幸氏のプロデュース作品と言うことも関係するのか、奥さんの中北千枝子が結構重要な役所を演じている。

白川由美や水野久美と言った当時の新人女優も出ているが、共に夏木陽介演ずる逃亡犯の関係者と言う役柄以上のものではなく、どちらもヒロインと言った印象ではない。

バンプ役のあけみを演じているのが、清純派イメージだった扇千景さんと言うのも珍しい。

水野久美のバンプ役はいかにもハマっているが、扇さんのバンプ役は、華奢過ぎて、ちょっと無理している風に見えなくもないが、そこが逆にリアルに見えなくもない。

佐藤允さんなど、刑事なのか記者なのかすらはっきりしない役柄なのだが、ラスト、防弾チョッキを着て夏木さんを追いつめるシーンに出ているので、おそらく刑事と言うことなのだろうが、ちょっとしたセリフまであるのに、キネ旬のデータベースには名前すら記載されていない。

赤裸々な人間たちの本性に迫り、映画好きには魅力的なこの作品だが、興行重視の今のメジャー系映画では、こうした脇役主体の映画は作りにくいはず。

おそらく当時も、動員的には厳しかったのではないかとも思うが、この作品、公開当時の併映は、森繁主演の「野良猫」と言う映画らしく、キャスティングを見る限りコメディらしいが、この二本立て、興行的にはどうだったのだろう?

この映画を観ると、昔のこの手の事件では、必ず、母親を国元から呼び寄せ、マスコミを通じて息子に自首するように呼びかける「情に訴えかける作戦」が行われていたことを思い出させる。

有名な「浅間山荘事件」などでも行われたと記憶している。

この世の中には、母と子の強い結びつきに勝るものはないと言うことなのだろうか。

ちなみに、峰子が住んでいる「東宝(?)スカイライン」と言うマンション風の建物は、東宝スタジオの本社ビルのようにも見える。

つまらないことだが、この時代から、カレーパンが普通に売っていることも分かる。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1958年、東宝、高岩肇脚本、熊谷久虎脚本+監督作品。

都会の風景をゆっくりパンする。

跨線橋が写る。

タイトル

2階を人に貸していたペンキ屋の店に1人でやって来た山内刑事(桜井巨郎)は、通報をしたペンキ屋の娘るみ子(横山道代)とその母親(出雲八重子)から、今、指名手配中のアパート荒らしの須藤慶一(夏木陽介)がかえって来ていると聞くと、署に寄らずに、自分1人出来たのだが…と、ちょっとためらった後、店の横の階段を登って行く。

2階で慶一と同棲しているあけみ(扇千景)が、外してくれと言われたらしく、下のペンキ屋にガウン姿のまま降りて来る。

その直後、町内に銃声が響き、通りかかったクリーニングの配達は自転車を停め、店の中に戻っていたるみ子たちが何事かと通りに出て来ると、2階からアロハを着た須藤慶一が飛び出して来て逃げて行く。

すぐさま、救急車が現場にやって来て、撃たれた山内刑事を運んで行く。

撃たれた2階の中は、駆けつけた刑事たちが検証していた。

2階に呼んだあけみに、須藤がペテンをしていたって知ってたんだろ?と刑事(村上冬樹)は聞くが、あけみは、借金のカタに取って来たと言っていたと答える。

拳銃を持っていたのも知っていたんだろ?と追求すると、2、3日前に、布団の下に隠しているのを観て知った。借金の方にもらった。相手の名前を言うと殺されるとも言っていたと、あけみは悪びれる風もなく答える。

下のペンキ屋にも、各新聞社から記者が取材に駆けつけており、るみ子に事情を聞いていた。

るみ子も、アパート荒らしと知っていたら、部屋なんか貸さなかったと息巻き、私だって、いつもだったらデンスケ(取材用可搬型テープレコーダー)持ってるんだけど、社に電話したら、まだ早いってなどと、自分もマスコミの端くれであることを証していた。

その場にいた記者の1人は、撃たれた刑事には子供が3人もあると気の毒がっていた。

一応、現場検証を終えた刑事が下に降りて来て車に乗り込むのに気づいた記者たちがその周囲に群がるが、刑事は、金を持たずに飛び出したので、そんなに遠くまで行けないだろうとだけ言い残し立ち去って行く。

その後に、若い刑事(佐藤允)が残り、二階に上がって行く。

和泉荘と言う安アパートの2階には、慶一の上の姉さち子(中北千枝子)が、ようやく夜勤の仕事を手に入れた亭主の駒吉(田島義文)と、子供2人の貧しい生活を送っていた。

今日も、管理人の玉枝(賀原夏子)が、家賃の催促をしに来ていたが、何とか駒吉に仕事が見つかったと聞き、それは良かったねなどとお愛想を言っていた。

管理人が帰ると、さち子は家の中の神棚にあれこれ願い事を頼み手を合わせる。

そんなアパートに刑事がやって来て、事件を教える。

一方、慶一の下の姉でファッションモデルをしている峰子(白川由美)のマンション「東宝スカイライン」の部屋にも刑事が踏み込むが、峰子は出かけているらしく、壁には峰子のポスターと、机の上には、そのポスターの会社の息子で恋人だと言う青年と一緒に写った写真立てが置いてあった。

そのパトロン兼婚約者榊原(北島信)の運転する車でドライブを楽しんでいた峰子は、おねえ風のしゃべり方をする榊原が、自分は学生時代、プリンスと呼ばれていたと言いだしたので、それがどうしたの?と聞き返していた。

つまり、皇太子並みに結婚式をやってくれと両親に頼んだのだと言う。

私、あなたのことを高嶋易断で観てもらったら、愛称良いんですってなどと言う榊原に対し、峰子は、弟を大学卒業させなくちゃ行けないし…と答えると、弟って、国大の医学部行ってるって人?大学の学費くらい出してもらうわよと榊原は約束する。

峰子は、カーラジオの音楽を止め、5時のニュースに切り替えるが、撃たれた山内刑事が3時40分死亡したと言うニュースが流れる。

それを聞いた峰子は、どうして世の中には人殺しなんかする人がいるのかしら、バカね…と人ごととして呆れてみせる。

新聞にも、事件のことが載る。

夜も、ペンキ屋の周辺には、カメラマン等マスコミ連中が張っていた。

車の中では、カメラマン助手のチョロこと西松(大村千吉)が、慶一の元カノのホステスを知っているんだと他の記者に自慢話している。

車の外では、ニュースカメラマンの中尾(天本英世)が、ポケットウィスキーを飲みながら、鋭いまなざしで、慶一が戻って来るのではないかと目を光らせていた。

その内、車内にいたチョロが、慌てて車を飛び出すと、側の売店の所で立ち小便を使用として、主人に叱られ、仕方なく、ペンキ屋にトイレを拝借に入る。

2階にこっそり上がって来たのは、あけみだったが、張っていた刑事に捕まってしまう。

それと同時に、押し入れ等に隠れていた他の刑事も息継ぎのため全員部屋の中に出て来る。

彼らはそうやって、2時間も慶一の帰りを待ち続けているのだった。

慶坊、もう東京にいないよなどとあけみは言うが、どこに行く?と刑事が聞くと、広子さんの所よと言い、刑事の手を振り払うと外へ出て、人目を気にしながら公衆電話の中に入ると、下にしゃがみ込む。

煙草の「ピース」の箱の中から、何か薬のようなものを出すあけみは、次の瞬間、すっきりしたような様子で立ち上がると、ハロー!ジミー!あけみよと電話する。

その後、愉快そうに歌いながら、人気のない通りに来たあけみだったが、突如、横の路地から伸びてきた手が、彼女を中に引きずり込む。

その後、ペンキ屋に戻って来たあけみの様子が普通ではないと気づいた刑事は、奴に会ったな!と聞くが、怯え切ったあけみは、私怖い…、あたい殺される!と言うので、どこで会った!と刑事が聞くと、そこの…と指差すので、その場にいた中尾は、店の前に駆けつけると、一緒に逃げろって言われたんだろう!どこだい?と聞くと、助手のチョロに、カメラを持って来い!と命じるのだった。

チョロと中尾が、慶一がいたらしい空き地に駆けつけると、物陰に隠れていた刑事たちがゾロゾロと出て来て、ぶち壊しだ!と怒りの声を上げる。

しかし、中尾は、お互い様だと言いながら、チョロと共に立ち去る。

翌朝、「和泉荘」前に張り込み先を変えた中尾とチョロ。

チョロは、近所の子供たち相手に、玩具のピストルを回してみせていた。

中尾は相変わらず、車の横でポケットウィスキーを飲みながら、会社にこのフィルムが売れれば2万がとこ入るだろうが、おれはいらんよとチョロに告げる。

中尾はあくまでも、特ダネを撮ることだけに賭けているのだった。

チョロは、子供の1人にピストルをやる。

管理人の玉枝の部屋に赤ん坊を連れて来ていた駒吉は、慶一のせいで仕事がポシャってしまったし、恥ずかしくて表にも出られないとぼやいていた。

赤ん坊は玉枝があやしている。

中尾はチョロに、一万円札を渡す。

管理人室にやって来たチョロは、前もって駒吉に頼んでいた慶一の写真を受け取ると、持って来た一万円を渡し、他のものにはご内密にと頼んで出て行く。

駒吉は、その金を玉枝に家賃として渡そうとするが、玉枝は断る。

慶一と、元カノの京子が写っていた写真を持って、中尾とチョロは、京子が勤めるキャバレー「トミー」にやって来る。

ホステスにその写真を見せると、整形って便利ねとホステスたちは、整形前の京子の顔に興味を持ったようだった。

今では、その京子のお陰で、自分たちは食べさせてもらっているなどと、中年ホステスの千代(都家かつ江)が笑う。

そこに、当の売れっ子ホステス京子(水野久美)がやって来て、同じテーブルに座る。

チョロから写真を見せられると、特に気にした風でもなく、乾杯!私の初恋の人に!などと陽気に振る舞っていたが、他のホステスたちが気を聞かせて席を立って行くと、いきなりその写真を握りつぶし、最後に立ち上がった千代につかみ掛かり、フロアに押し倒すと、私に恥をかかせて!と怒りをあらわにする。

テーブルでは、面白く書いてくださいよとチョロが中尾に頼み、中尾は、友情を裏切っていいのか?とチョロに確認していた。

峰子は、ドライブを楽しんだ帰り、楽しかったわ。早く挙式挙げましょうよと運転する榊原に甘えていた。

その峰子の住む「東宝スカイタウン」で張っていた中尾は、あの女知ってるのか?とチョロに、京子のことを確認していた。

チョロは、任しといてくださいよと請け負っていた。

そこに、榊原と峰子を乗せた車がやって来るが、マンション前にマスコミが詰め掛けているのに気づいた峰子は、何かしら?と不思議がる。

僕たちの婚約のことじゃないか?とのんきに答え、車を停め、部屋まで峰子を送ろうと降り立った榊原と峰子に記者たちが殺到する。

刑事が峰子に近づくと、弟さんが刑事を殺したんですと告げる。

それを聞いた榊原は、あなたの弟さんって医学部に行ってたのでは?と峰子に問いかけ、動揺した峰子は、榊原や刑事、記者たちまでも引き連れていることに気づかない様子で、そのまま自室へ入って来るが、アパート荒らしだったんです。あなたも罪に問われますよ。弟さんがキャバレーで使い込んだ20万を、月々返しているって言うじゃないですか!などと追求されると、何も言えないまま、部屋を飛び出し、再び、榊原の車の中に逃げ込む。

榊原も乗り込んで来て、とにかくここを離れましょうよと言い、車を出発させる。

助手席に座っていた峰子は、ごめんなさい!どうしても、弟のこと言えなかったと涙ながらに告白する。

今夜、オタクに泊めて下さらない?お願い!と峰子は頼むが、榊原は返事をしない。

その時、姉ちゃん!と呼びかける声が後ろの方から聞こえて来たので、峰子と運転していた榊原は驚愕する。

どうやら、後部トランクの中に潜んでいる慶一が、トランクを叩いたり、姉ちゃんと呼びかけているらしかった。

どっか遠くに連れてってくれ!と慶一の声が聞こえて来る。

ピストルは?と榊原が問いかけるが、慶一の答えはない。

早く降りて!バカ!交番につけるわよ!と峰子は脅すが、慶一の声は、遠くに逃がしてくれと言うだけ。

その内、榊原は、提灯を回して車の停車を促している警官の姿を前方に見つける。

検問だった。

榊原は素直に停車し、免許証を提示して、そのまま車を発車させるが、どうもすみませんでしたと詫びる峰子に、どっかで降ろしてよと榊原は命じる。

そして、人気のない所で車を停めたので、峰子は降りて、後部トランクの方へ近づく。

トランクが少し開き、慶一が周囲を警戒するように、その隙間から周囲を見渡す。

大変よ、早く降りなさい!と声をかける峰子。

慶一がトランクから出ると、榊原は車を発車してしまったので、驚いてそれを追おうとした峰子は、途中で諦め、慶一の元へ戻って来ると、バカ!と言ってビンタする。

どこまで姉ちゃん、めちゃめちゃにすれば良いの?私の一生、めちゃめちゃよ!と峰子は怒りに身をふるわせるが、慶一は、そんな峰子の気持ちだと気にする風もなく、俺、逃げる。警察に言わないでくれよ!と言い残し、その場を逃げ去って行く。

その後、峰子は、姉のさち子の所へ来ると、慶一のことを警察に連絡すると言って近所の赤電話まで行こうとするので、さち子は止めようと、赤ん坊を背負ったまま追って来る。

あんただって、ファッションモデルと言う派手な仕事をしているじゃない!とさち子は、密告すれば、自分たちも破滅することを教えようとするが、私だって一生懸命やって来たのよ!と峰子は叫ぶ。

その後、2日間、杳として慶一の行方は知れなかった。

やがて、慶一の母親が上京するとの報道が流れる。

タクシーで、和泉荘へ母親のふさ(三好栄子)を乗せて来る途中、さち子は、慶一、キャバレーでお金使い込んでいるのよ。峰子が一番可愛そうだわ…と、ふさに教えていた。

その背後から追って来る車には、るみ子が、同僚の男とともに乗っていた。

もちろん、母親の声を、他社に先駆け録るのが目的だった。

首から、大きな数珠を下げたふさは、終始無言のままだったが、和泉荘に到着すると、待ち構えていたマスコミ陣にもみくちゃにされる。

さち子は、私が妹と相談して来てもらったのと説明し、何とか房を自室に招き入れると、ふさは腰が抜けたようにしゃがみ込んでしまう。

さち子が、そんなふさに、目の前に座っていた男を刑事さんだと紹介すると、ふさは慌てたようにお辞儀をすると、私が産んだ子ですと詫びるのだった。

和泉荘の外では、るみ子がチョロと、母親の談話を撮れたら、接吻一回させてやると言う奇妙な約束をしていた。

管理人室に入り浸っていた駒吉の所へ来たラジオプロデュサー(南道郎)が、何とか、ふさの声を録音させてくれないかと頼み込んでいたが、そこに、さち子の子供がやって来て、父ちゃん、おばちゃんのアパートから電話だって!と伝える。

峰子が服毒自殺未遂を起こしたと知ったラジオプロデュサーと駒吉は、車で「東宝スカイライン」に向かう。

マンションの峰子の寝室の中では、医者(瀬良明)が峰子の治療に当たっていたが、その部屋の中に、マスコミ陣が入り込んで騒ぎだしたので、看護婦(中野トシ子)が、良識ある皆さん、御静かに!と呼び掛け、外に追い出す。

医者は、駆けつけて来たふねに、発見が早かったので大丈夫です。夕方には気がつくでしょうと告げ、それを聞いた船は、その場に失神してしまったので、医者は慌てて、カンフル剤を看護婦に命じる。

その後、ふねはソファに寝かせられ、看護婦は、トランジスタラジオでジャズを聴き始める。

外で待機していたカメラマンは、駒吉に、シャッターの押し方を教え、何とか、峰子の写真を撮るように頼む。

駒吉は、親戚のものです!とドアを叩き、中に入れてもらおうとするが、ドアが開くと、駒吉だけではなく、他社のカメラマンたちも一緒に中になだれ込む。

駒吉は部屋の中で一瞬戸惑うが、すぐに、寝室に入ると、まだ眠っている峰子の写真を撮る。

しかし、その直後、慶一が捕まったと言うニュースが入ったらしく、記者たちは全員部屋を飛び出して行く。

そのフラッシュで目覚めた峰子に、駒吉は、気まずそうに照れ笑いをして部屋を出る。

外で待っていたチョロはるみ子に、どっちもダメだったときはどうなるんだっけ?と聞き、るみ子は目をとじ、キスさせようとしたので、チョロも喜んで唇を近づけようとするが、るり子は寸前で顔を外して去って行く。

駒吉はカメラを預かった記者に返すが、事件解決したら、何の価値も無いんだよと言われただけだった。

記者たちは、新たに発生した埠頭のバラバラ事件の現場へ一斉に向かう。

ペンキ屋のあけみも、恋人らしき外国人ジミーの車に乗って、どこかへ去って行ったので、現場に張り付いていた刑事は、当分、あの女の廻りで事件が起こることだろうと皮肉を言う。

夜、和泉荘の前では、子供たちが花火をして遊んでいたが、さち子の子供だけは、捕まったらダメだとか、人殺しって一番悪い人だってなどと虐められ、仲間に入れてもらえなかった。

部屋に戻っていたさち子は、部屋の中に慶一がいることに気づき驚く。

夕べからマンホールに潜っていたと言う慶一は、母ちゃんが今来ているんだよ、峰子姉ちゃん、薬飲んだのよと姉から聞いても、死ねば良かったんだ。裏切りやがって…、どうせ俺、1人殺したんだなどと捨て鉢なことを言うので、さち子は、自首してと勧める。

しかし慶一は、腹が減った、何か食わしてくれと言うだけ。

仕方なく、さち子は、パンを買って来るから、この子を頼むわねと、寝かしている赤ん坊のことを託して外へ出る。

近くの店にやって来たさち子は、カレーパンを3つ買うが、応対した女店員が不審に思うほど動揺していた。

パンを買ったさち子は、その店の電話から110番に通報する。

慶一は、畳に寝かされている赤ん坊を見つめてじっと待っていたが、そこにさち子の上の男の子が帰って来る。

鍵を開けてやると、中に入ってきた子供は、じっと慶一の顔を見て微笑みかけ、ピストル貸してよ。他の子たちが遊んでくれないんだと頼む。

慶一が断ると、子供は素早く、鍵を開け、外に飛び出すと、おじちゃんが来た!と騒ぎだす。

管理人室にいた駒吉は、本当に来たのか!?と部屋から出て来るし、戻って来たさち子は、慌てて子供の口を塞ぐが、慶一は身の危険を察知し、窓から脱出する。

慶一は、近くの川から下水溝へと入り込む。

そこに接近するパトカー。

さち子は、管理人室にいた駒吉の背後にいた玉枝に、野良猫~!と叫び暴れていた。

記者が押し寄せ、その場にいた刑事に、捕まったはずじゃなかったんですか?と詰問する。

どうやら、捕まった静岡の男と言うのは似ていた別人らしかった。

その後、さち子は、子供と赤ん坊を連れ、峰子のマンションへ来る。

戸を叩いて、さち子よ、開けて!と声をかけるが、部屋の中では、母親のふさが、太鼓を叩いて大声で読経しているし、看護婦はイヤホンでラジオを聴いているので、誰も気づかない。

最初に気がついたのは、ベッドで目覚めた峰子であった。

寝室から出て来た峰子は、姉ちゃんが来てるじゃない!と母と看護婦に文句を言い、ドアを開けてやる。

外に張っていた記者たちと一緒に入って来たさち子は、看護婦が記者たちを追い出した後、ずっと壁に向かって拝み続けている母親のふさに、止めてよ、母ちゃん!この世には神様も仏様もないわ!あんなに祈ったのに、何一つ良いこと等ないじゃない!と自分も母親の影響を受けて、神頼みしていたことを後悔しているようだった。

子供が、父ちゃんと喧嘩したのと告げ口したのを聞いた峰子は、姉ちゃん、もう止めて!とさち子のヒスを止めようとする。

ふねも、太鼓を叩くのを止め、気が抜けたように座り込み、これを叩いてると、気が鎮まるんでね~…と言い訳をする。

その時、何故か、追い出されるのを免れて、ずっと部屋の中にいたるみ子が、私は慶一さんに部屋を貸していたものなんですが、慶一さんのことを弟のように思っていましたと言い出し、デンスケのマイクをふねに差し出すと、呼びかけてやってください!と頼む。

誰の許可を受けて入って来たの?とるみ子に気づいた峰子は追い出そうとし、母ちゃん、どうして死なせてくれなかったの?!誰が生かしてくれって頼んだのよ!これから、どうやって生きて行くの?誰が私を幸せにしてくれるの!私、もう誰も信じない!と、今度は自分がヒステリーを起こし始める。

そんな中、るみ子はまだふさの口元にマイクを向けており、東京都民を助けると思って、一言!と頼むと、ふさはようやく口を開け、慶一!早く自首しておくれ!とマイクに向かって叫ぶ。

その頃、中尾はチョロの言葉を信じて、京子の自宅を張り込んでいた。

京子は、深夜、中年男を引っ張り込んで、一軒家に戻って来る。

あんなジジイ連れ込みやがって…、ぶち壊しじゃないか!こんなスクープを撮るのは、敵前上陸撮って以来だ…と中尾は興奮気味に呟く。

柴田(上田吉二郎)と言う中年男を庭先から中に上げ、ベッドに近づいた京子は、そこに人影があるのに気づくと凍り付く。

待ち構えていたのは慶一だった。

銃を向けながら、誰だ?こいつと慶一が聞くので、私の客、スケベジジイよと京子は教える。

何か食うもんくれと慶一が頼むと、京子は困った様子だったが、柴田が持っていたシューマイの包みを投げてやると、それを貪り食いだす。

この人、私の青春を捧げた男性No.1!と柴田に紹介すると、良くここが分かったわねと慶一に話しかける。

慶一が、京ちゃん、変わったね…と、シュウマイを食いながら言うと、あんた、捕まっちゃダメよ!あんたを追いかけてる連中だって、戦争で人を殺した奴でしょう?目くそ鼻くそよ!と京子は答える。

その時、部屋の隅でおどおどと立ち尽くしていた柴田が、あんた、自首した方が良いよ。横浜の今西さんなんかは、死刑廃止論者だから話してみれば?僕が、今西さんんpうちに連れて行こうと慶一に話しかけて来る。

すると京子は、この人、前に、刑事を首になったんだってと慶一に教え、あんたの太鼓判なんてメ○ラ判なんだから!と柴田を罵倒する。

私と一緒に逃げようよ。子供まで出来た仲じゃない…と慶一に甘えた京子は、ちょっと旅にいる物を買って来る。嫌なら逃げなさいと慶一に言い残すと、チャイナドレス姿のまま庭先からサンダルを履いて出かけるが、すぐに、サンダルを脱ぎ捨てると、はだしになって外へ飛び出す。

表情も、先ほどまでの愛想笑いを浮かべた顔から無表情へと豹変していた。

慶一は、部屋の中でかかっていたラジオから聞こえていた音楽が終わり、逃亡中の犯人の母親の声ですと言うアナウンサーの声が聞こえて来る。

慶一、早く自首しておくれ。お願いだから…、自首しておくれ!とふさの声が聞こえた後、須君、聞こえましたか?とアナウンサーが諭すような言葉に変わる。

一緒に残っていた柴田は、悪いことは言わん。わしが連れて行ってやる。今、京子がどこに行ったかご存知ですか?あいつが来たら、110番に突っ走ってやるって言ってましたよ。パトロールが来たら、全てはお終いですよと言い聞かせる。

それを聞いた慶一は、家の外の道に出てみると、ちょうど京子が戻って来る所だった。

畜生!裏切りやがって!そう呟いて睨みつけて来た慶一に気づいた京子はきびすを返して走り出す。

それを追う慶一。

その慶一を追い抜いて京子の方に近づいた車は、中尾やチョロが持って待っていたオープンカーだった。

後部座席に後ろ向きに16mmカメラを構え載っていた中尾は、銃を片手に京子を追う慶一の表情をカメラに収める。

叩き殺してやる!と悪鬼の形相で京子に迫る慶一。

くやしいだろ!ざまあみやがれ!と罵倒しながら、必死に裸足で逃げる京子は、横に並走している中尾たちの車に乗り込んで来る。

中尾たちの車はバックし、慶一に軽くぶつかり転倒させると、また発車する。

中尾は、今度は助手席に乗った京子の表情を写し始める。

それに気づいた京子は、こちらもものすごい表情でカメラを睨みつけて来る。

チョロは、特ダネを遂に撮れたと喜び、中尾も満足げにカメラを降ろし、ポケットウィスキー飲む。

2万円、頼みますよ!と、中尾にねだるチョロ。

その時、雷鳴が轟きだし、急に雨が降り始める。

空き地に逃げ込んだ慶一は、土管の中に逃げ込み、持っていた拳銃を草むらに投げ捨てるが、すぐに思い直して、必死に探しまわる。

その時、銃の近くに子犬がおり、土管の中に戻ると、その子犬も一緒に入って来る。

お前もひとりぼっちか…と言いながら、その子犬を抱きしめた慶一だったが、どこからか母犬らしき声が聞こえると、子犬は慶一の手をすり抜け、走り去って行く。

峰子のマンションでは、母親のふさが、1人壁に向かって座り込んでいた。

峰子のベッドでは、峰子とさち子の赤ん坊と子供が寝ており、さち子は側の椅子に座って寝ている。

そこへ電話がかかって来るが、目覚めた峰子もさち子も受話器を見つめるだけで出ようとしない。

ようやくさち子が受話器を取ってみると、相手は慶一で、母ちゃん、いねえか!と言う。

ふさが受話器を取り、もしもし…、慶一!と泣きながら呼びかける。

公衆電話から電話を賭けていた慶一も、母ちゃん!と呼びかける。

もう死んでも良いんだと捨て鉢になっている慶一の言葉を聞いたふさは、死んじゃ行けない!死なないでくれ!と絶叫する。

刑事側にいるのか?と慶一が聞くのでいないよとふさが答えるが、又裏切るんだろ!と慶一は疑う。

母ちゃんがお前を騙したことあったか!噓ついたら、母ちゃん、殺しても良いとふさは答える。

しかし、公衆電話の近くに近づいて来たパトカーのサイレン音に気づいたのか、慶一はそのまま受話器を捨てて逃げ出してしまう。

側で電話を聞いていた峰子が、母ちゃん、慶一が来たらどうするの?と聞き、外で待ってたら、外の刑事さんたちに知らせるの?とさち子が聞く。

警察の人が本当に慶一を助けてくださるのなら、母ちゃん、あの子に殺されても良いとふさは答える。

事情を知った警察は、防弾チョッキを着込んだ大部隊を「東宝スカイライン」に集中する。

夜のマンション内には、拳銃を持った犯人が侵入したので、部屋の外に出ないようにアナウンスが流れる。

慶一はマンションに侵入し、屋上に逃れたとの連絡が入る。

母親を呼んで来い!と慶一からの要求があったので、防弾チョッキを着た警察官がふさを部屋の外へ連れ出し、屋上へ向かおうとしていたが、何を思ったか、ふさは付き添いの警官を突き飛ばし、1人で階段を登り屋上へ向かう。

それを、屋上に出る出口付近で警官たちが必死に制止し、危ない!出るんじゃないと言い聞かす。

慶一は、屋上の隅に追いつめられていた。下からはサーチライトの灯が照らされている。

ふさは、もう半狂乱のような状態になり、慶一!慶一〜!と叫び続ける。

慶一は、もう逃げ場を失い、給水塔に登りかける。

撃たないでください!殺さんでくださ〜い!ふさが絶叫する。

娘の峰子とさち子も駆けつけており、必死にふさにしがみつく。

慶一〜!!

慶一は屋上の隅に再び追いつめられ、拳銃を撃って来るが、警官たちは、残弾が後2発だと読んでいた。

拳銃を捨てろ!これ以上、無駄な抵抗は止めろ!警官隊が呼びかける。

しかし、やけになった慶一が、屋上から飛び降りて自殺する危険性が残されていた。

警官や娘たちを振りほどいたふさが、屋上に飛び出し、橋の手すりを乗り越えようとしていた慶一と対峙する。

慶一〜!

母ちゃん!必死の形相で、母親ふさの顔を見つめる慶一。

唇を噛み締めていた慶一は、手すりの手前側に戻って来て、おとなしくなる。

そこに駆けつけて来た刑事たちが手錠をかけると、それを観たふさは、何をするだ!慶一に何をするだ!慶一が何をしたと言うだ!と叫び、慶一、母ちゃんと一緒に国に帰ろう。母ちゃん、待っとるど。ごっつぉ一杯作ってなと慶一に語りかける。

捕まった慶一は、正気を失った母親の顔を見て涙を流す。

刑事たちに慶一が連れて行かれると、慶一!とふさは呼びかけ、慶一も、母ちゃん!と叫ぶ。

さち子と峰子は、正気を失った母親の側に駆け寄り抱きしめる。

慶一を連行する刑事が、母ちゃんだけが、お前のことを心配してくれたのか…、母ちゃんは、お前が思うほど不幸じゃないぞと静かに言い聞かせる。

屋上に座り込んだふさは、太鼓を叩いて読経しているようなジェスチャーをしていた。

その横には、さち子と峰子姉妹が、気が抜けたようにしゃがみ込んでいた。